メンバー紹介①渡辺幸三さん◆レファレンスモデルの役割

渡辺さんは、業務システムの設計手法「三要素分析法」の提唱者で、三要素分析法に基づいた設計ツール「X-TEA Modeler」および、設計情報にもとづいてアプリケーションを実行するための基盤「X-TEA Driver」を開発・公開されています。また、さまざまな設計データを「レファレンスモデル」として公開されています。自宅近くの居酒屋さんで話を伺いました。

◆設計スキルを底上げするための教材として

―「レファレンスモデル」を公開することの意義についてお聞かせください。業務システムの設計情報を公開するというのはあまり聞かない話ですが、なぜこのような取り組みをされているのでしょうか。

まず、業界全体の設計品質を底上げする必要があると考えるからです。ユーザ企業にとって、業務システムの開発は未だに高価でリスクの高いものです。さまざまな要因があるでしょうが、まずは設計技術を向上させることで状況は改善されると考えています。

新しいシステムを新規で開発するとき、多くの現場ではゼロから設計しています。しかし、業務システムの設計において、プロジェクトに固有な条件はあるものの、共通する設計課題も少なくない。こうした課題は、先人の知恵をそのまま借りたほうが効率的に解決できます。

―確かに、簡単な例で言えば、ユーザや組織の管理といったモジュールはどのシステムでも必須ですから、そういった箇所はすでに実績のあるモデルを使ったほうが効率的なのでしょうね。

そうです。建築の分野では多くの設計情報が公開されていますが、システム開発の分野では入門レベル程度のものしか見あたりません。レファレンスモデルはそういう状況を改善してくれます。

◆方法論の有効性を示すための素材として

レファレンスモデルを公開する2つめの理由は、設計手法を評価するための素材になると考えるからです。

―渡辺さんご自身も「三要素分析法」という設計手法を提唱されています。

業務システム開発向けの設計手法はいろいろあります。選択肢があったほうが良いのでしょうが、ユーザ企業が実験台になるべきではありません。その前に手法の有効性を検討できたほうがいい。その枠組みに沿って記述された設計事例や実システムが公開されていれば、第三者でも方法論の有効性を事前に検証できます。

―開発視点で考えると「どのようなプロセスか」という点に興味がかたよりがちですが、当然ながら一番大事なのは「どういうものが作れるか」ですよね。

「どういう事例を支えられるか」ですね。たとえば音楽を記述するための枠組みがあるとします。その有効性は、いかに多彩な楽曲を記述できるかで検証できます。じっさいにそのように検証されて、現在の楽典の体系がメジャーになりました。しかし、システム開発の枠組みに関しては、そういう視点が欠けている。「こういうやり方(書き方)がいい」という主張には、そのやり方(書き方)でまとめられた事例の数々がレファレンスとして添えられるべきです。

◆モデル駆動の枠組みを探る

3つめの理由は、「モデル駆動の枠組み」を探るための素材になるというものです。ソフトウエア開発には、飛行機や建築物と違って資材が要りません。だから、設計情報そのものが動作可能であるという面白い特性があります。レファレンスモデルそのものをソフトウエアとして動作させられるか。そういうことを考える素材になってくれます。

―渡辺さんはじっさいにそのような枠組みをX-TEA Driverとして公開されていますね。

音楽の楽典の例といっしょなんです。音楽の記述体系として適切ならば、その体系にもとづいて機械に演奏させることができる。五線譜で書けばそのまま演奏してくれる音楽ソフトはいろいろありますよね。ソフトウエアもいっしょで、「こういうやり方(書き方)がいい」という枠組みがあれば、その体系で記述された内容にしたがってコンピュータが動作する基盤が遅かれ早かれ出現するはずです。

―開発方法論を提唱するということは、第三者がその有効性を検証できるようないろいろな素材を添える責任をともなっているということですか。

そういう責任がないなら、誰だって明日から方法論者になれますよね。そういう素材をいろいろと提示できるという点で、私はプログラマであって良かったと思っています。まあプログラマとしては、同じ勉強宴会のメンバーである久保さんに比べたら恥ずかしいようなレベルなんですが。

―今日はどうもありがとうございました。

渡辺さんのサイト

http://homepage2.nifty.com/dbc/index.html